2018年6月21日(木) 19:10 JST

可動テンセグリティの建築利用に関する研究

  • はじめに
  • 2種類の可動テンセグリティ
  • 可動テンセグリティの変形シミュレーション
  • 実機による変形実験
  • 多数ユニットや複雑な変形の制御のために
  • おわりに
  • 補遺1:テンション生成装置の変遷
  • 補遺2:強化学習による制御獲得の試行
  • はじめに

    テンセグリティは圧縮力と引張力のそれぞれを専門に負担する2種類の材(圧縮材・引張材)で構成される構造体で、圧縮材同士が互いに接触しない浮遊感のあるデザインが特徴です。また、その見た目とは裏腹に、頑丈であるという特徴もあります。このように独特で優れた特徴を持つテンセグリティですが、建築での利用はあまり見られません。本研究室では以前からテンセグリティの建築利用を目的に研究を行ってきました("テンセグリティのデザインワークフロー")。継続研究では、テンセグリティを可動化させることで建築利用の可能性を広げることを試みました。

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    引用:Eleanor Heartney (2009). Kenneth Snelson: Force Made Visible, Hudson Hills Press

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    平沢研究室「テンセグリティのデザインワークフロー(2012)」より (リンクはこちら

    ・生体とテンセグリティ

    生物の身体おいても、骨格と筋肉、細胞骨格と細胞膜といった関係がテンセグリティの圧縮材・引張材の関係に類似していると言われており、これらはBiotensegrity(生体テンセグリティ)と呼ばれ、医学や生体工学の分野で研究されています。

    通常のテンセグリティは静的で頑丈な構造体ですが、私たち生物の身体はそのテンセグリティと似たつくりで柔軟で連続的な動きをしています。そこで生体テンセグリティを参考にすれば、静的なテンセグリティも柔軟な変形が可能であると考えました。

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    引用:http://www.intensiondesigns.com

    ・建築の可動機構とデザイン

    建築における可動機構には大小様々なものがありますが、特徴的なものはその建築のデザインのコンセプトにもなり、その存在は大きいと言えるでしょう。一方で、建築に用いられる可動機構はほとんどがヒンジやスライド、回転などの機構で構成されており、変形動作は限定てきなものになっています。これら既存の機構に加えて、より多様な動作ができる機構があれば、デザインや機能面で幅広いアイデアが期待できます。

    そして、生体のように柔軟に変形可能な可動テンセグリティができれば、「より多様な動作ができる機構」となりうるのではないかと考えました。

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    引用:http://www.archi-map.jp/


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    引用:http://inhabitat.com/

    2種類の可動テンセグリティ

    本研究では、生体テンセグリティから着想を得て、異なるコンセプトを持つ2種類の可動テンセグリティを制作しました。

    ①細胞のような可動テンセグリティ
    ②肘関節を模倣した可動テンセグリティ

    それぞれ、引張材となる箇所に自作のリニアアクチュエータを取り付けてあります。

    可動テンセグリティの変形シミュレーション

    制作した可動テンセグリティはリニアアクチュエータを操作することで変形させることができますが、闇雲に操作しても狙った形状にするのは困難です。構成によっては操作するリニアアクチュエータの数が膨大になり、人の手では扱いきれなくなってしまいます。また、テンセグリティ的に無理な操作をしようとすると、部品が破損する恐れもあります。そこで、実機を動かす前に、操作を検討する方法として物理演算エンジンを利用した変形シミュレーションを行います。

    例として、シミュレーション上で下図のように変形するような操作を検討したとします。このとき変形中の各引張材の変化を記録しておきます。そして、実機の対応するリニアアクチュエータをシミュレータ上の引張材と同様の変化となるようにそれぞれ操作すれば、シミュレーションで検討した通りの形状に実機を変形させることができるというしくみです。

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    実機による変形実験

    上で述べた要領で、シミュレーションで形状を検討して、実際に実機を操作してみました。

    ・T-prismの1ユニット

    上下面の引張材を短くし、縦方向の引張材を長くしていくことで、全体としてユニットが高く(細長く)なっていきます。

    ・3ユニット

    3ユニットではドーム状に変形し、一部の圧縮材が接地しなくなるような変形を行ってみました。ここでは大まかに、上面の引張材を長く、下面の引張材を短くするという操作を行っています。単ユニットでは比較的単純な変形しかできませんが、複数がつながるとより変形の幅が広がります。

    ・より多数のユニットの変形

    ユニット数を増やして同様の操作をすると、より大きな変形が可能であることがわかります。こちらは実機制作のコストや場所の面からコンピュータによるシミュレーションのみですが、同様に実現可能であると考えています。これくらいの面積・変形量があると、建築での使い道がでてくるように思えます。

    ・腕型

    関節型可動テンセグリティでは、人間の関節の動きを観察して操作を決定しました。関節を曲げ伸ばしする際、収縮する筋肉(主働筋)と弛緩する筋肉(拮抗筋)が対になって動作します。関節型可動テンセグリティにおいても対応する引張材をそれぞれ収縮・弛緩させることで曲げ伸ばしを行うことができました。

    こちらは関節型可動テンセグリティの広い可動域を活かしたデモです。支持点を動かすことで曲面を柔軟に変化させます。曲げ伸ばしだけではなくひねる動作も可能なので、それを取り入れた活用法も考案中です。

    このように、制作した可動テンセグリティを変形させることと、そのためのシミュレーションの有効性が確認できました。

    多数ユニットや複雑な変形の制御のために

    ここまでで紹介したように、引張材の長さ(リニアアクチュエータ)を適切に調節することで、様々な形に変形させることができます。ですが、適切に調節するということが実はとても難しく、現段階ではシミュレータ上での人の操作でうまく変形できる形状・操作を発見できるかにかかっています。上で紹介した「より多数ユニットの変形」では全体で322本の引張材があり、上面・下面・縦方向と操作をまとめて簡略化することで対応しましたが、この方法では変形のバリエーションは限定的になってしまいます。残念ながら、現段階では多様な変形が可能である可動テンセグリティのポテンシャルを引き出すには至っていません。大量の引張材の長さを適切に制御できればより複雑な変形が可能ではありますが、それを人の手で行うことは困難かつ非効率的であると言えます。

    そこで、現在はその引張材の制御に対して、強化学習などの機械学習の手法を取り入れられないかということを試みています(補遺2)。

    おわりに

    生体テンセグリティから着想を得て、可動テンセグリティを制作しました。また、変形のためのシミュレーションを行い、それをもとに実際に変形可能であることを確かめました。実機はまだプロトタイプであることやスケールの制約などから、使える部品が限られます。そのため、配線が目立ち野暮ったい感じが否めませんが、今後はうまく隠蔽したり無線化できたらと考えています。制御に関してはまだまだ課題があるので、今後も取り組んでいく予定です。さらに、次の段階では具体的な建築利用についても検討していきたいと思います。

    テンセグリティの可動化については、実はNASAなどでも研究がされており、探索ロボットとしての活用を目的としているようです。NASAの研究と何が違うのか、とよく質問されることがありますが、本研究ではあくまでも建築での使うための試みであるため、設計や制御の発想の起点から異なると考えています。探索ロボットとしての活用では、着陸(落下)の衝撃に耐えられる、転がって進むことができるといったことが求められると思います。一方、本研究における可動テンセグリティでは、空間を構成し変化させられることなど建築で使うことを目的に研究を行っています。

    補遺1:テンション生成装置の変遷

    実機に取り付けられているリニアアクチュエータですが、現行のものにたどり着くまでに試作を繰り返し、5回のモデルチェンジを行いました。せっかくなので紹介しておきます(左から旧→新)。現行のものもまだ弱点があるので、より良い機構がほしいと考えています。

    • 引張材巻取り機構を持つ圧縮材1 ・・・ パーツの耐力不足
    • 引張材巻取り機構を持つ圧縮材2 ・・・ 金属化による重量超過
    • リニアアクチュエータ1 ・・・ 引張材としては外径が過大
    • リニアアクチュエータ2 ・・・ モータのトルク不足
    • リニアアクチュエータ3(現行) ・・・ ギアによる伸縮速度の減少

    補遺2:強化学習による制御獲得の試行

    T-prismの単ユニットを対象に強化学習の代表的手法であるQ学習を適用した例を簡単に紹介します。上で紹介した実機実験では、人の操作により高く(細長く)なっていく操作を検討していました。ここでは、その操作を人の手ではなくQ学習によって得られるかを試してみます。

    予め、下図のように引張材をグループ化と操作のパターンを定義しておきます。この6つの操作パターンの組み合わせで実機実験と同様にユニットの高さが高くなるような操作を求めます。学習の目標は初期形状よりも30%以上高くなる状態とし、1操作あたりの伸縮量は初期長さの2%分としました。

    下図は学習の概略です。シミュレーション上でユニットは一定時間毎に0~5の操作パターンを一つ選択し、その行動を実行します。最初はランダムな行動を繰り返し、なんとか目標の状態にたどり着かせます。たどり着いたら、ゴールする直前の状態で取った行動の優先度を上げておき、次の試行に移らせます。これを繰り返していくことで、後ろの方から行動を決定していきます。そして、学習が収束したときの数字の並びが必要な操作として得ることができるというしくみです。

    学習の初期ではほとんどランダムな行動を取り続けます。そのため、無理に縮めてジョイントが破壊されたり、反対に緩めすぎて圧縮材同士が接触してしまうことがあります。その状態は望ましくないものとして、行動の優先度を下げることで次の試行では回避するようにします。「目標を達成する」「ジョイントが破壊される」「圧縮材同士が接触する」いずれかの状態になると形状を初期化して次の施行に移らせています。学習が進むと下動画の右側のようにスムーズに高くなっていくような操作が得られました。

    最終更新日:: 2017年4月 7日(金) 11:35 JST|表示回数: 961 印刷用ページ


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